「今まで辛かったこと?そんなこと考えることもなく走り続けてきた気がするよ」
「仕事の中で辛かったこと?若いころから今まで何でも挑戦してきたけど全くないね。今まで作ったものや今まで会ったお客さん、そしていろいろな要望があったけどその中で辛かったことは思いつかないね。」
長年のトーヨーを支えてきた屋台骨である日下さんは語る。青年だった当時から印刷の仕事に没頭してきた当時を振り返っても思い当たらないという。
お客さんの要望にひたすら応えることを続け、そして得た信頼は何よりも職人としての誇りだという。「職人は幸せな仕事だよ」。そっとつぶやく。それは目の前の仕事をただひたすらに取り組んできた男だからこそ言える言葉ではなかろうか。
「師匠なんていなかった。全てが自分でしなくてはいけなかった」
頑固な風貌で初対面の人からすると少し近寄りがたい日下さんは静かに語った。
「師匠と言える人が違ったのかもしれないな。ただ当時は全て自分で考えてしなくてはいけなかった。工夫して工夫して何とか自分で進んでいくしかなかったんだ。がむしゃらに実験し失敗を重ねたことがよかったのかもしれないけどね。」
若い当時印刷技術を自らの試行錯誤で身につけたことで自分で大きく物事を見ることができるようになった。そのうち「シルク印刷」のことを知り、今後はこのシルク印刷が増えていくだろうと直感的に感じたそうだ。
「素材や色、印刷場所を問わないシルク印刷が魅力に映ってね・・」その卓越した先見性はまさに職人としての勘だったといえるだろう。もちろんシルク印刷に取り組みはじめ、その技術は全て自分で高めたとのことだ。
「とにかくやる。できるまでやる。今とは違うかもしれないけどね」
「できません、なんてことは言えなかった。できないのではなくてどのようにしたらできるのかを考えてやってきたんだ。難しいと感じてもまず取り組むことで何か解決の糸口が見えてくるもんだ」
職人として40年を超える期間経験を踏んできたこと。それは、数々の挑戦と経験を踏んだことによって培った自信の結晶だと言える。
「今とはちょっと違うのかもしれないけどね」
と、いつもよりハッキリとした声で、それでもどこか寂しそうに笑った。
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40年以上いいモノを作り続けてきた手
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今もまだ現役
傷が歴史を物語る
玉木から見た日下
現役シルク印刷担当玉木は年も二回り違う日下さんを今も職場で仕事姿を見ながら彼を追い続けている。この道に進み何十年もの経験を積んだ玉木にとってもまだまだ日下さんは雲の上の存在だという。
「体に気をつけてこれからも頑張ってほしいですね・・なんてことを言うと「まだまだお前には負けん!」と怒られそうですね(笑)。